相続するなら「現金」より「不動産」のほうが断然お得?
まことしやかにそんなことが一般的に言われていますが果たしてそうでしょうか?
仮に
現金  1億円
不動産 時価1億円相当
の遺産だとすると相続税評価額は
現金はそのまま1億円
不動産は時価の7000万円程度(時価の7割)
になり「だから相続するなら現金より不動産が得で有利だ!」という流れにもなりかねないのですが必ずしもそれが正解だとは言えないのです。

笑顔の江本

私は相続・介護に特化した高齢者専門の不動産会社なのですがそれにまったく逆のことをお勧めしています。


「おかしなことを言う不動産屋だなぁ・・?」
と感じた方はぜひこのままこの後の内容も知っておいてくださいね。

親の家は相続前に売却?相続後に売却?


相続・介護に特化している不動産会社でもある私たちには多くの実家の売却相談があります。
その中には
父親が亡くなったが母親がまだその実家に住んでいる?
というケースもたくさんあります。

そこで問題になるのが
実家を相続前に売却するか?相続後に売却するか?
なんです。

残された片親の介護や老人ホームのお金の問題もある。
子供の誰も今の田舎の実家を引き継ぐ考えはない。
だからいつかこの実家の売却するのはみんなの暗黙の既定路線である。
そんな考えがまとまりつつある段階でいつも子供の誰かが言い出すのは
「実家を売ってお金で相続するより不動産で相続する方が得で有利だろ!」
という議論です。
でもこれが必ずしも正しいとも間違っているともいえないので私も困ることが多いです。

相続税を考えるなら不動産で相続するのが有利でお得だが・・・


相続税の観点からならば不動産で相続する方が有利でお得である!
そんな場合もたくさんあります。これは紛れもない事実です。
わざわざ相続税対策のために新たに不動産を購入することもあるくらいです。
そんな場合は相続する予定の不動産の売却は相続が起こるまでしばらく延期するのもよいかもしれません。

相続税がドカ~ンとかかるくらい遺産があるなら不動産で相続が有利

相続する遺産の種類によってその課税価格(相続税評価額)は変わってきます。
現金ならばそのままの金額が課税価格(相続税評価額)になります。
しかし土地や建物など不動産は客観的な評価は難しいです。
そのため税務署は
・土地は路線価(参考:国税庁(路線価)
・建物は固定資産評価額
での課税価格(相続税評価額)を適用することを認めています。

一応
土地の相続税評価額(路線価)は時価の7割程度
建物の相続税評価額(建物固定資産評価額)は時価の50%~60%程度
となっています。
この時価と相続税評価額のギャップをうまく利用することが相続税節税のポイントです。

必ずしも不動産の相続税評価が時価相場より低いとは限らないことにも注意

路線価図

しかし、この路線価はたんに道路ごとに価格をふっているので要注意しなければなりません。
単純に路線価×土地面積だけでは判断できないこともあるのです。

特に昨今の不景気であったり(地方では過疎が深刻)、地形やその他の条件で不動産の時価が必ずしも路線価より高いとは限らないのです。

特に広くて大きな土地の場合は気を付けて

相続税評価においても広大地評価をいって大きくて広い土地は評価減ができます。

泣く江本

ただ、相続税申告に不慣れな?面倒くさがり?な税理士は単純に路線価×土地面積で相続税を計算する場合も多いので気を付けてくださいね
参考:相続で税理士の選び方のポイント|相続専門不動産会社からの助言

これは相続する不動産の実勢価格相場でもいえることなのです。
大きくて広い土地をそのまま利用するために購入する人は数が限られてきます。
多くはその周辺状況に合わせた規模に分割して売却する場合が多いです。
ですから50坪との土地の坪単価と500坪以上の土地の坪単価は大きく異なることも知っておいてください。

不動産相続税節税の切り札の【小規模宅地の特例】

自宅を同居する家族が相続する場合にはなんとその土地の相続税評価額を80%も減らしてくれます。
1億円の相続税評価の土地ならなんと小規模宅地の特例を使えば相続税評価額は2000万円にまで下げてくれるのです。
ただし、これは同居する家族またはマイホームを持っていなかった家族が相続する場合に限られます。
よく相続税節税のためにみせかけの同居を偽装する方もいますが税務署は甘くはありません。
そのあたりはきちんと調べて見破ってしまいますからご注意ください。

不動産で相続するなら遺産分割の仕方をきちんと決めておく

相続税の観点からすれば確かに
現金で相続するよりも不動産で相続するほうがお得で有利
といえます。
でも、これは意外と簡単な話ではないのです。
先にご説明した「小規模宅地の特例」などは相続する人の要件が厳しく定められています。
法定相続割合以外の遺産分割は「遺言書」か「相続人全員の合意」がなければできません。

不動産ほど相続でもめやすい遺産はない!ということだけは肝に銘じておいてくださいね。

現金で相続するほうがお得で有利

私は多くの場合が
「不動産で相続するよりも現金で相続する」
ことをお勧めする場合が多いです。
それはこんな理由からです。

相続税がかかるのは100人中7人程度しかいない

みなさん相続税のことを心配されますが実は相続税がかかるほどの遺産相続って100人いたら7人程度しかいないのです。
参考:国税庁 平成29年分の相続税の申告状況について

ですから、まず相続する予定の遺産の内容や評価額を予め概算でもよいので調べておいて欲しいですね。
まず相続税基礎控除額は
3000万円 + (法定相続人×600万円)
です。

現金などはそのまま
不動産は
・土地は路線価
・建物は固定資産評価額
とりあえずこれで調べてみてください。

母親と子供2人なら
3000万円 + (3人×600万円)=4800万円
これ以下なら相続税は考えなくてもかまいません。

現金があるからこそ親の老後・介護で大きな安心

相続税基礎控除額を超えてしまう遺産相続になりそうだ?
そんな場合でも相続する不動産は売却して現金化をお勧めする場合もあります。

もちろん相続税がウン千万円もかかるような資産家なら話は別ですが、多くはそれほどの相続税はかからない方ばかりではないでしょうか。

お父さん、お母さん、老後や介護で子供をアテにしてはいけませんよ

昔と今の考え方や常識は大きく変化しています。
多くの子供たちは自分たちの暮らしが優先です。
また今は二世帯同居する子供たちも少ないですし、その二世帯同居生活で失敗する親子も少なくありません。
また離れて暮らす子供にとって遠距離介護はとても大変で長く続けれるものではありません。

最悪のことを考えるのが最善の対策です。
楽しく自分らしい老後生活や手厚い介護を望むならやっぱり頼りになるのはお金です。
例えば老人ホームです。
必ずしも高い老人ホームが良いとは断言できませんが、少なくとも安い老人ホームよりも良い!
というのが老人ホームの紹介もしている私の率直な感想です。

値段が少し変わるだけで老人ホームの雰囲気や介護の質は全然違います。
これはたくさんの老人ホームを見てきた私が実感する現実です。

不動産はあるのに現金が無い?
そんな親の老後はかなり厳しいものになってもしかたありません。

不動産はいつまで経っても減らすことはできませんが現金なら減らすことができます。
以下の動画も参考に観てください。

不必要な大きなお家ならば売却してコンパクトなマンションに引っ越すのもいいかもしれません。

参考:おひとりさまの老後の最後の住まいは?賃貸?持ち家?老人ホーム?

かいがいしく介護してくれる子供に援助してあげられるかもしれません。

もちろん他の子供たちから「特別受益だ!」とか言われないようにきちんと遺言書は説明はお忘れなく

こんなことができるのも「不動産ではなく現金を持っているからこそ」可能なことなんですね。
自分たちの老後や介護のため使う
かいがいしく介護してくれる子供(孫)に援助してあげる
そうこうしているうちに残す相続財産は基礎控除額以下になっているものです。

相続税前の自宅などの不動産売却が譲渡所得税が安くなる

親自身も先祖から相続した不動産の場合は取得委が不明なことが多いです。
そうなるといくらで購入したか?証明できないので「みなし取得費」で売却時の譲渡所得税を計算しなければなりません。
「みなし取得費」は売却価格の5%です。
おおざっぱに考えると売却譲渡価格の95%が課税対象なんです。

親が住んでいる時の自宅の売却ならば
3000万円特別控除
が適用できます。
つまり課税対象額から3000万円を差し引いた分で税金をけいさんできるのです。

この居住用財産3000万円特別控除に似ていて相続後に使えるものもあるのですが
・老人ホームにいたことの証明
・空き家は解体して売却
などなどかなり使い勝手の悪い制度なので気を付けてくださいね。

なんといっても現金が一番分けやすく時間のかからない遺産である

なんといっても現金が一番分けやすい遺産である
これが一番大きな理由ではないかと考える私です。
相続した不動産の売却は時間がかかるものです。
実家の片付けも相続した後にすぐできるものではありません。
相続発生した後 数年も経てば人の気持ちが変わることも少なくないのです。

その点、現金なら遺産分割の話がまとまればすぐに終わります。

遺産相続は今までの人間関係の清算でもあります。
相続の話はパパっと済ませていつまでも仲の良い兄弟姉妹でいたいものです。

相続した不動産を売却するのはとても大変である

相続前ならば親の不動産の売却は親が決めれば住む話です。
これが相続後になるとそう簡単な話ではなくなるのです。

そこには
・親の介護の不公平
・同居していた子供の反対(住むところがなくなる?)
・法律では供はみんな同じ相続割合
・家を守っていく長男の意識
たくさんの意見や考えが交錯します。
それぞれの主張や考えは誰にも「どれが正しく」「どれが間違っている」なんていえないのです。
遺産相続は相続人みんなで話し合わなくてはいけません。
それ以外の方法は
・親が生前に遺言書を書いておく
・家庭裁判所に調停の申し立てをする
しかありません。

泣く江本

たくさんの相続不動産の売却をお手伝いしている私ですが一番お悩みは
買主を見つけるよりも相続人みんなの意見をまとめる方が10倍も大変
なことです。

相続する不動産の売却可能価格を知っておくことが大事


日頃から親の不動産の市場価格相場には敏感にアンテナを張っておいてくださいね。
・土日の不動産のチラシをチェック
・不動産ポータルサイトで検索してみる
そうすることで概算でも相続する不動産の実勢価格相場もわかるものです。