遺産分割協議書
普通の方はあまり聞き馴染みのない書類の名前だと思います。

遺産分割協議書とは
相続人全員が遺産分割のことを話し合った結果、その協議内容について合意したことをまとめた書類
といえます。

どうしてもみなさん相続で「お金の話はしたくない!」と考えるものです。
また、口頭で遺産分割のことを話し合っても、あとで「言った!」「言わない!」という押し問答がよくあるのも相続の遺産分割です。
ですから、きちんと書面でその遺産分割協議の内容の証拠を残しておくのです。
もちろん、あとでお話しする
・相続不動産の名義変更
・相続税の申告書
には必要書類となります。

遺産分割協議書が不要な場合

遺産分割協議書不要
相続の遺産分割で遺産分割協議書が不要な場合があります。
それは
相続人が1人だけ
遺言書の記載通りに遺産分割する
遺産が現金・預金だけ
という場合です。

相続人が1人だけなら遺産分割協議書はいらない

当たり前ですが、相続人がひとりだけの場合はだれとも協議する必要は無いので遺産分割協議書は不要です。
ただ、相続人がひとりだけのことを証明するために戸籍関係の書類が必要です。

遺言書の記載通りに遺産分割する

亡くなった親(被相続人)が生前に遺言書を残してあり、その遺言書の記載通りの遺産分割を行うのならば遺産分割協議書はいりません。
つまり遺言書そのものが遺産分割協議書みたいなものなので、不動産の登記名義変更や銀行預金解約などの相続手続きには遺言書を提出すればいいからです。
ただし、自分で書いた遺言書(自筆証書遺言)を法的に有効にするためには
法的要件を満たしていること。(書き方に不備があれば無効)
家庭裁判所の検認手続きを経ること
が必要です。
せっかく書いた遺言書が一部分でも欠けていたり書き方が間違って無効だなんてことになれば天国のお父さんお母さんも悲しいことでしょう。
しかし、意外と法的要件を満たさない自分で書いた遺言書(自筆証書遺言)は世の中にはたくさんありますし、遺言書が見つからなかったり、「強制・脅迫で書かされた遺言だ!」「もう親父は認知症でボケていたからその遺言書は無効!」と後で難癖をつける子供(相続人)が出てくることもあります。
できれば、きちんと公証人役場で作る公正証書遺言をお勧めします。

遺産が現金・預金だけ

亡くなった親(被相続人)が家の金庫などに保管していた現金などを分けるにはなんの相続手続きもいりませんから遺産分割協議書などいりません。
というか相続人(子供)の誰かに黙って隠されたら・・?
また亡くなった親名義の銀行預金口座からの出金するには各金融機関に届け出て所定の用紙に署名(戸籍謄本など必要書類も添付)すればできます。
※ただし相続人全員
亡くなった銀行預金口座の凍結解除にはもう少しお話ししなければいけないこともありますが長くなるのでここでは割愛します。

参考:亡くなった夫の銀行口座が絶縁状態の義理の姉の了解がないと引き出せないなんて納得できない

遺産分割協議書が必要な場合

遺産分割協議書
遺産分割協議書が不要な場合よりも必要な場合の方が圧倒的に多いと思います。
遺産分割協議書が必要になるのは
土地や家など不動産を相続してその登記の名義変更をする
相続税の申告をする
亡くなった親名義の預金口座がたくさんある
不平不満を持ちそうな相続人がいる
という場合です。

土地や家など不動産を相続してその登記の名義変更をする

亡くなった親(被相続人)名義の土地や家など不動産の登記名義変更を行う場合で
法定相続割合で遺産分割する場合には遺産分割協議書が無くても可能です。
通常は法定相続割合通りの共有名義になりますよね。
しかし、この共有名義は将来において相続トラブルの大きな原因となることも多いのでご注意ください。
できれば、相続人の誰かひとり(配偶者・子供)の名義にしておくことを強くお勧めします。
なぜなら共有名義というある意味宙ぶらりんな状態だと将来の「売却」「建て替え」「お金を借りる(抵当権設定)」の時に困るからです。
共有名義では全員の了承が無くてはなにもできません。
10年後20年後にはその中の誰かが亡くなっていたり認知症の場合もあるでしょう。
亡くなっている方がいればその相続人(子供)の了承が必要になります。
そうなれば従兄弟同士で遺産分割の話し合いをしなければいけない場合もあります。
認知症の場合は成年後見人を立てる手続きをしなければいけません。

亡くなった親名義の土地や建物など不動産の登記名義変更(相続登記手続き)では、たいていは遺産分割協議書が必要になります。

相続税の申告をする

相続税の申告をする場合は遺産分割協議書が必要な場合が多くあります。
たとえば
小規模宅地の特例(相続税評価を8割減)
配偶者控除(法定相続割合の1/2、または1億7千線万円まで無税)
などなど遺産分割のやり方次第で相続税が大幅に減額できる制度があります。
これらを利用するには遺産分割協議書が必要です。

亡くなった親名義の預金口座がたくさんある

原則、金融機関が預金名義人の死亡を知った時には預金口座凍結となります。
その凍結解除には煩わし手続きが待ち構えています。
各金融機関ごとに相続人全員が所定の用紙に署名捺印しなければならず大変です。
遺産分割協議書があればかなりその負担も少なくなります。

不平不満を持ちそうな相続人がいる(相続人の誰かが遺産分割の合意を覆すかもしれない)

相続の話し合いがまとまったとしても、後からそれを覆す相続人が現れることもよくある話です。
それくらい「お金の魔力」って恐ろしいのです。

泣く江本

私の経験したケースでは、いったんまとまった遺産分割の話し合いが
僕はそれでもいいんですが、嫁がどうしても納得しないんです!
とちゃぶ台返しを食らったことがあります。
お嫁さんは今回の相続とは無関係ですよ
とお話ししても
・・・・・
と黙ったまま遺産分割の話し合いは暗礁に乗り上げてしまいました。

参考:義実家の相続が気になる嫁が余計な口出しすると相続トラブルになる

通常は遺産分割協議書を作成し、必要書類(印鑑証明・戸籍謄本など)がそろい、それらをきちんと提出先に出した時点で初めて遺産分割協議が終わったといえます。
ただの口約束だけではあとで「言った!」「言わない!」ということになりますから、遺産分割協議書を作成しておくことを強くお勧めします。

遺産分割協議書を作成するには

遺産分割協議書の作成には
雛形(テンプレート)から自分で遺産分割協議書を作る
専門家(弁護士・司法書士など)に依頼する
方法があります。

雛形(テンプレート)から自分で遺産分割協議書を作る

遺産分割協議書の書き方自体はさほど難しいものではありません。
雛形(テンプレート)を元に自分で作成することも可能です。

参考:法務局遺産分割協議書サンプルより

自分で遺産分割協議書を作成する場合の注意点は以下の通りです。
不動産の内容は登記事項証明書(登記簿謄本)のとおりに記載
預金口座は金融機関の名称とその支店名・預金種別・口座番号まで記載
株式等の有価証券などについては、銘柄名等によって特定できるようにする。
(証券会社名や口座番号等も併せて記載)
実印で押印
複数ページにまたがる場合は製本(袋とじ)は割り印で一体化させる
相続税申告用の場合は署名は自筆

参考:遺産分割協議書の署名捺印欄以外に余白に押印(捨印)の意味とは?

笑顔の江本

なお、生命保険などは税法上はみなし相続財産ですが民法上は相続財産ではないので記載は原則不要です。

できれば専門家(弁護士・司法書士など)に依頼するのがベスト

遺産分割協議書の作成は難しくありませんが、その書き方というか表記の仕方が独特です。
できれば専門家(弁護士・司法書士など)に依頼するのがベストだと思います。
例えば
パソコン?手書きどちらでもかまわない
最初のタイトルは「遺産分割協議書」と書く
故人の最終の本籍地と住所地を記載(住民票と戸籍を参考)
故人の氏名・死亡日を記載した上で、前書きを記入

ここまでは問題ないのですが
遺産の記載する。
※不動産であれば地番や家屋番号など登記通り
借金があれば記載
・「後日判明した財産」についてどうするのかの記載
※例1 本協議後、後日、新たに被相続人の遺産が確認または発見された場合は、改めて相続人間で遺産分割協議を行うものとする。
※例2 本協議後、後日、本協議書に記載なき被相続人の遺産が確認または発見された場合は、相続人田中花子がこれを取得するものとする。
作成年月日を記載
相続人全員の住所・氏名を記載し実印押印(認印不可)
複数枚になる場合には、製本して実印で割印を押印

この記載の仕方でよく躓きます。
不動産は住所ではなく土地の地番や建物の家屋番号で記載しなければなりません。
マンションの場合は少し特別です(敷地権登記)
また金融機関の預金の書き方もよく間違うものです。

せっかく作った遺産分割協議書に不備があって使い物にならない?
そんなことがあっては骨折り損のくたびれ儲け!
不備を修正しようとしたら他の相続人の気持ちや考えが変わって前回の遺産分割協議の内容は帳消し?
またいちから時間をかけて話し合う?
そして遺産分割協議が難航してもめてしまう?
ということもあります。

結局は相続税申告や相続登記名義変更など相続手続きを行う時に専門家(弁護士・司法書士・税理士など)の力を借りるのですから最初から依頼した方が簡単です。

遺産分割協議作成を依頼する専門家

この遺産分割協議書の作成ですが目的によって依頼する専門家が変わってきます。
遺産分割協議書作成を依頼する専門家には
司法書士
行政書士
弁護士
税理士
などがあります。
では、どんな場合にどんな専門家に依頼するかというと・・・?

司法書士

一番多いのが親名義の不動産の登記名義変更だと思います。
その場合は司法書士に依頼します。
登記申請書の添付書類として遺産分割協議書を作成します。
相続財産全般の場合もあればその該当不動産のみの遺産分割協議書の場合もあります。
司法書士自体の費用は5~10万円前後ですがこれに登録免許税や必要書類収集費用がかかります。
提出先:法務局

参考:相続した土地の名義変更の費用と必要書類は?自分でも出来る?

行政書士

不動産の名義変更以外の相続手続き全般に関する相続手続きは行政書士の出番になります。
主なものに
・銀行預金口座凍結解除
・車などの名義変更
などがあります。
その中の業務で遺産分割協議書を作成します。
費用はトータルで10万円以内が多いように思います。

弁護士

遺産分割協議が難航してしまった場合には家庭裁判所の調停までお付き合いがあるかもしれません。
費用はそこそこ高額になるのは仕方ありません。(最低でも数十万円以上)

参考:相続トラブルの弁護士費用は安くはない!わずかな遺産では損になる

税理士

相続税申告書の添付資料として税理士が遺産分割協議書を作成します。
相続税申告業務の費用に含まれますが、相場の目安は遺産の0.5%~1%程度が多いように思います。
ただ、あくまで相続税申告業務だけですので相続税節税対策のコンサルティングは別料金の場合もあります。

参考:相続税申告で税理士費用をケチると逆に大損?でも相場はいくら?

遺産分割協議書のまとめ

いかがでしたでしょうか?
書面の内容的には難しくはないのが遺産分割協議書ですが、一番の問題は
相続人の遺産分割に関する考えをまとめ上げること
ではないでしょうか。
そんなことから逃げてしまって遺産分割の話をしない!させない!無視!
という方がいかに多いことか!?は私も身をもって知っています。
それがどれだけ次世代に迷惑をかけることか?だけは知っておいてくださいね。

関連記事
参考:相続した土地の名義変更していないとこんな問題が起こる!