介護と相続

親の介護は時間の経過とともにその負担が大きくなっていきます。
最初は本心からの親孝行であってもいつかふと心が折れる時があります。
なぜなら、私がそうだったからです。
私は早く結婚独立した兄や姉とは違いずっと親と暮らしてきました。

泣く江本

私は32歳で今の不動産会社を興し結婚よりも仕事が忙しく、ずっと親との同居を続けていました。
※その当時はまだ相続専門ではありませんでしたが・・・
そうこうしているうち肺ガンで片肺全摘をしていた父が肺炎をこじらせて数年後に他界。
その後は母と二人きりの生活でした。
そんな状態が十数年・・・
今度は母が脳梗塞を発症し約10か月後に実家に帰ってきました。
幸い身体の麻痺は比較的軽く見た目にはいたって普通です。
ただ今から考えれば初期の認知症だった気もしますが高齢の母(85歳)は時にひどい癇癪(かんしゃく)をよく起こすようになりました。
急に怒り狂って物を投げつけられたりひどい暴言で罵られたり・・
今思えば自分の体が思い通りに動かないストレスを一番ぶつけやすい同居の私にストレートにぶつけていたのかもしれません。
ぶつける方はよいですがぶつけられる方はたまったものではありません。
時には我慢できずに声を荒げて大喧嘩にもなりました。
そんな状況に耐えきれず別居の兄や姉に何度もS・O・Sを出したものです。
「お姉ちゃん、お母ちゃんの世話 俺 もう限界かもしれん」
「お兄ちゃん、お母ちゃん ボケてきたかもしれんわ」
そんな僕のS・O・Sに心配になった兄や姉が高齢の母の様子を見に来ると
「もぉーしんちゃん、大げさやわ!別に普通やんか」
と安心して帰っていくのです。
不思議と別居の兄や姉が実家に帰ってくると急にスイッチが入る母はいたって優しく元気で明るくしっかりするのです。
同居の僕には見せたことのないような満面の笑顔で兄や姉と話しているのです。
でも、帰ってしまうとすぐに元通りになってしまうのですがねぇ・・・(涙)
今思い出しても母の介護は「あれ以上のことはできんかったなぁ」とも考えますが、親の介護をしていた当時は本当に辛かった。
母が亡くなった時には大きな悲しみとこれで介護から解放されたというほんの少しの安堵感も正直あったかもしれません。
幸いというか残念というかうちの親にはほとんど遺産といえるものはなかったのですが、本当にほんのわずかの遺産に私の心が危うくダークサイドに陥りかけたのです。
親のお金の管理は私がしていましたが、
「これだけ親の介護をやってきたのは俺だけやし・・・」
「これがあれば今のポンコツ車を買い替えられるかも?」
母親の御葬式でほとんど親が残したお金は無くなりましたが一瞬そんな気持ちが僕に芽生えてしまったのも事実・・
だから、そんな風に考えてしまう方も少なくないのでは?と痛感っしました。

自分自身が親の介護や相続を経験を活かして相続専門の不動産会社として活動し多くの方からのご相談を受けていると、すごくみなさん「親の介護」と「遺産相続」の関係性を誤解されている方が多いのです。

結論から言うと
なにも対策を講じなければ親の介護をしていても相続では報われない可能性が高い
と言わざるおえないことも知っておいてくださいね。
なぜなら
法律では子供たちはみんな平等な法定相続割合です。
あなたの親の介護の苦労の度合いを判定するのはあなたではなく他の相続人たち
だからです。
なにも対策をしなければ、あなたが考えている遺産分割の仕方は諦めてください
「親の介護をしてきたのだから、遺産は私が多く相続するのは当たり前!」は他の兄弟は納得しない可能性が大きいのですから・・

親の介護の不公平を相続の時に「特別寄与分」としての清算は難しい

兄弟間で不公平な親の介護
実は親の介護に尽くしてきたあなたにとても辛いことをお伝えしなければいけません。
それは親の介護の貢献度である特別寄与分はあなたが決めるものではなく他の相続人と一緒に話し合って決めるものなのです。
そうなるとそれがとても難しいことは薄々でもあなたは気付くかもしれません。

相続で介護の寄与分の判例

「法律でちゃんと特別寄与分というものがあるじゃないか!」
きっとそう思われる方も多いのですがこれがかなりハードルが高いのです。
親の介護で相続で認められる特別寄与分はどれくらいなのでしょうか?
重度の認知症の方を24時間365日ずっと献身的に介護してきた子供に認められた介護の相続における特別寄与分が1日当たり数千円程度だったという判例もあるくらいです。

家庭裁判所では客観的に特別寄与分を判定するといわれています。
例えば介護付添人の日当が一日当たり1万円程度とします。(8時間程度?)
すると親の介護に費やした時間が何時間か?それは何回か?
週に4回、1日当たり4時間程度とすれば
4回×5千円×4週間 = 月額8万円
もちろん子供が親の介護をするのはある程度当たり目という面からかそこからさらに割引されます。
20%程度減額されれば月額6万円程度
1年間で72万円
5年間でも360万円
こんな感じで算定されることも多いことも知っておいてくださいね。
しかもこれにはなにかしらの客観的な資料や証拠などをきちんと提出して初めて認められるのです。
ただ「親の介護をしてきたから!」という理由で認められるものではありませんし、たとえ認められてもそれほど大きなものにはなりにくいことも知っておいてくださいね。

しかし、これではさすがに親の介護を献身的にする気持ちも萎えてしまいます。
いくら「遺産目的で親の介護はしていない」という心優しいあなたであっても、やはりそれではやる気が失せてしまいます。

では「親の介護の貢献度」を反映した遺産相続をするにはどうすればよいのでしょうか?

親が遺産分割の仕方を決めておけばベストだがそれも難しいですよね?


いくら「いずれ相続するんだから!」といっても親が生きている間はあくまで親の財産は親のものであって子供がどうこうできるものではありません。
だからこそ親がどうしようと親の勝手です。
親が自分の遺産を子供たちにどう相続させるか?
「長男には●●、次男には◎◎、外に嫁いだ娘には▲▲」
と自由に決めることは全然OKなことなんです。
※もちろん「遺留分」というものもありますが・・・
親が自分の相続の時の遺産の分け方をある程度だけでも指示しておけば遺産相続でもめることもすいぶん少なくなるでしょうがねえ・・

可能であれば遺言書を書くことだけど

相続でもめるのは子供だけではなくて親も悪い?
そんな風に私は考えています。
これだけ遺言書が後の相続トラブルを避ける有効な方法だとわかっているのに書いてはくれないものです。

人は
自分のしたことは過大評価し
他人のしたことは過小評価する

これ長年たくさんの相続トラブルに接したきた私の格言です!

しかし法律では「子供たちの相続する権利はみんな同じ」と定められています。
法定相続割合とは異なる割合で遺産分割するには
法定相続人が話し合って決める(誰か一人でも反対ならNG)
親が遺言書を書いておく
決まらないなら家庭裁判所に調停を申し立てる
しか方法はありません。
特別寄与分は相続人全員が話し合って決めるものですからそう簡単に話がまとまることはないのはあなたもご理解できるはず。
ならば親が自分の相続でどう遺産分割を決めておいてくれればその通りに粛々と進めることができますy。

ただこのことから目を背ける親がどれだけ多いことか?
自分自身が子供たちに差をつけることにすごい罪悪感を感じる親が多いんですね。
ならば介護などの親の面倒も平等にできればよいのですが、それとこれとを別々に親は考えてしまうものです。
だから相続トラブルになるのですから、ある意味「相続トラブルは親が原因」ともいえます。
でもそのことをきっちりと親に伝え親に行動させなかった子供にも責任があるともいえます。
たとえ親が嫌がっても説得しなかった?できなかった?
ならばあなたの考えている遺産分割のやり方は諦めてもらうしかありません。

遺言書が無理なら子供たち全員の前で親に自分の考え(想い)を話してもらう

遺言書よりもかなりハードルが低くするために
何かの機会に親の相続に関する考えをこどもたちみんなの前で話してもらうことができればそれだけでもかなり相続トラブルは回避できるように私は考えています。

親戚のお見舞いやお葬式、あるいは親がなにか大きな怪我がや病気をしてしまった時
なにかしらのきっかけを逃さず親に「自分の相続の時の考え」を話してもらう場を逃さないことです。

私が週刊文春さんの取材を受けた時にもお話ししたのですが
高齢の親は「かまってちゃん」というか自分にもっと関心を持ってほしい気持ちからか?
息子には娘の悪口を、娘には息子の悪口を言うものなのです
姉には弟の悪口を、弟には姉の悪口を言うものなのです。

だから、相続の時に親の介護の苦労が報われないのかもしれません。

私はあなたの自宅でエンディングノートの書き方セミナーを開催したり、相続の話し合い(家族会議)の開催のお手伝いをしていますが、それも家族全員で相続や介護のことを話し合うきっかけ作りのためなんです。
そこでなにかしらの親の「相続の時の遺産分割に関する考え」を子供たちに伝えておくことができればどれほど相続争いが無くなる?!
「この家は同居の◎◎にあげようと思っている」
「長男の〇夫には悪いが、私たちの世話をしてくれている娘の▲子に多めに相続させたいのよ」
たとえ法律的にはそれが必ずしも有効ではありませんが、親がこんな風に遺産相続の指針でも話してくれていたら・・・・?

親が話してくれなければ子供たちだけでも話し合っておく

それでも親は自分の相続の時のことを話すことはしてくれないことも多いでしょう。
そうなれば子供たちだけでも「親の相続をどうするか?」を話し合っておく機会を考えなければいけません。
みんなそのことにはできるだけ触れないようにタブーとしているから、いざ相続の時に好き勝手なことを言い出すのです。
そう、もう親の介護を押し付けられないことがわかっているのですからね。

介護する嫁の養子縁組も有効

養子縁組

「すでにそんな風に親が他の兄弟姉妹の前で話してくれそうにもない?」
そんな方もいるでしょう。

そんな方には介護している方の妻や夫などを養子縁組という方法もあります。

お義姉さんは黙っていて!関係ないんだから!
お義兄さんは黙っていてください!これは僕たち兄弟姉妹の問題ですから!
そんなことを言われるかもしれません。
特に息子の嫁(長男の嫁)が一番義両親の介護では苦労しているはず?
ならばそんなことを言われないように親に嫁や夫など配偶者の養子縁組を親に提案するのもよいかもしれません。

「養子縁組すれば相続税の基礎控除額が増えて有利になるから」という名目で親に話すのもよいかもしれません。
たとえ子供たち全員で平等な法定相続割合になったとしても他の兄弟たちの倍になりますからある意味 それで介護の苦労も報われるといえるかもしれません。

不動産(実家・土地)など相続人全員のハンコがいるようなものは売却処分してお金に換えておく

実家売却
ひょっとして既にあなたは
「こら、ぜったい相続の時にもめるよなぁ・・・」
なんて感じているかもしれません。
それくらいすでに兄弟姉妹間でギクシャクしているならおそらくきっとその悪い予感はかなりの高確率で的中するかもしれません。

なのであれば、親名義の不動産などの実家を売却してお金に換えておくことも考える必要があるかもしれません。
実は別居の子供が親の財産を調べることってかなり大変なことなんです。
まあ、逆の立場の「親の遺産を調べたい子供たち」からたくさん相談を受けている私ですが、なかなか簡単ではありません。
ちょっと文字で説明するの難しいので私のYouTubeのこちらをお聴きください。

実家の土地建物など不動産などは隠しようがありません。
また登記名義を換える、売却するには相続人全員の署名捺印がある遺産分割協議書が必要になります。
その他、相続手続きが必要になるものは極力無くしておくことが大事です。
※相続手続きはすべての相続人の署名捺印が必要です。(ひとりでも反対したらNG)
しかし、現金預金は?というとかなり別居の子供が調べるのにはハードルがグッと高くなります。
ただ銀行が預金名義人が亡くなったことを知れば即座に凍結してしまいますが、別に役所と銀行が連動しているわけではありません。
もちろん、相続税がかからない程度の遺産の場合ですが・・・・

参考:実家の売却は相続専門の不動産会社に任せた方が良い

別に遺産隠しを勧めているわけではなく、あくまで現実をお話ししているだけですのでそのあたりをくみ取ってください。
ただ不動産などを売却してお金に換えておけば・・・・

生前贈与などで確保しておくこともできる

親が介護してくれている子供に対して生前贈与という形で感謝の気持ちを表すことができます。
ただ、このあたりは他の相続人から特別受益を主張される可能性もありますけどね・・・

いつかやってくる子供がする親の介護の限界!その時にできること

「最悪のことを考えておくのが最善の対策である!」
と私は考えています。
もしかすると子供ができる親の介護の限界がいつかやってくるかましれないのです。
特に今は超高齢化社会です。
100歳以上のお年寄りもまわりにはゴロゴロいらっしゃいます。
そしてその子供はというとすでに子供自身も高齢者なんですね。

介護したくてもできない?
そんな事態になればやはり介護のプロのお世話にならなければいけません。
最終的には老人ホームという選択肢も十分考えておかなければいけないのです。
しかし、値段の安い特別養護老人ホームは入居待ちで入れません。
かといって格安低価格帯老人ホームでは手厚い介護も望めませんし自由度も少ないのが現実です。

だからこそ私は
高齢者は家などの不動産よりも現金預金を持っておきなさい!
とお勧めしている理由です。

相続や介護はきれいごとではできないのが現実だから

かなりえげつないお話を今回はさせていただきました。
もちろんこれでもかなりオブラートに包んだ自分でも歯がゆい内容ですが公開の場であるネットではこれ以上はさすがに書けません。(笑)

笑顔の江本

ただ、できるか?できないか?は別にしてなにも対策を考えていないなら自分勝手な遺産相続は諦めてください。
遺産相続は誰かが多く相続すれば、その分 誰かが相続する遺産は少なくなります。
話せばわかりあえる?
そんな遺産相続がなまやさしいものではない事いだけは知っておいてくださいね。

【実家相続介護問題研究所の相続格言】
親の介護に金は出さぬが口は出す!相続では手を出してくる!

相続・遺産問題・遺言書でわからないことは弁護士に相談が早道!

■いくらネットで検索しても無駄です
相続のもめごとは百人いれば百通りで同じケースはありません。
だからネットでいくら解決策を探していてもあまり意味はないのです。
遺産分割で納得できないが自分の主張が正しいのか?間違っているのか?
そんなモヤモヤを抱えたままずっと悩んでいるよりも弁護士に相談するのが解決の早道です。
「相続弁護士ナビ」では、全国の相続に強い弁護士の情報をご提供するサイトです。