生前贈与

生前贈与は相続課税財産を相続税なしで子供や孫に渡す有効な手段だが?

ある税理士の先生のご提案や説明を私の相談者と一緒に聞いていて、
少し違和感を感じる私でした。
「これって少し人の気持ちがわかっていないご提案では?」
と思ってしまたのです。

私の考え方は
最悪のことを考えて、最良の相続対策を考える」
ことです。

こんなご提案というかご説明が税理士からありました。

※実際にはもう少し細かい数字でしたが、わかりやすくするために概算化しています。

住宅資金贈与
親から子供へマイホームの購入資金として1500万円(平成27年中の契約・省エネ等住宅の場合)まで贈与税が非課税枠内になる制度です。

教育資金一括贈与
30歳未満の孫(ひ孫でもOK)に教育資金として贈与をするなら一人1500万円まで贈与税がかからない。
信託銀行などの金融機関に孫(ひ孫)など受け取る人の名義で預け、教育にかかった費用の領収書などを提出してその口座から引き出す仕組みです。
これには入学費用や学校の授業料だけでなくかかった習い事の費用もOKとされています。
この制度は孫やひ孫なら何にでも贈与できます。

これらを活用して
三人いる子供(長女・長男・次男)のうち
長女に1500万円
長男に1500万円
住宅資金贈与

孫である
長男の子供2人に1500万円ずつ
長女の子供1人に1500万円
教育資金一括贈与
というご提案です。

確かにこれならどかんと相続財産を次世代・次々世代に相続税などの税金がかからず
うまくバトンタッチできますよね。

でも・・・・?


なんで、末っ子の次男には?

はい、今回の次男さんはすでに分譲マンションを購入しています。
もちろん住宅ローンは目いっぱい組んでいます。
そして、次男さんは共働きで子供はいません。

しかし、そんなことなど気にも留めず
「税金がかからないなんてエエ話やなぁ!!」
と妙に乗り気なご相談者(親)でしたが・・・


将来に憂いを残さないのか?遺産相続トラブルに火種は無いのか?

上手に生前贈与を活用すれば相続税は減らすことができます。

でも、それが将来の相続トラブルに発展する可能性がある場合も多いのです。



遺産分割で話し合う時に、よくもめるのが「生前贈与」を「特別受益」といわれるものです。

では、仮に相続で9000万円の遺産が残ったとします。

「残った子供三人に平等に3000万円ずつ相続しよう!」
と長女や長男から申し出があったとしても、
次男から「ちょっと待ってよ!」
と異議を述べられることもありますよね?

生前のマイホームなどの住宅資金の援助や結婚費用など、
一部の子供に親から援助があった場合は、
援助を受けていない子供から「その部分も考慮して遺産分割をしよう!」と主張されることも多いのです。

また、その援助の事実を他の兄弟姉妹には秘密にしている場合も多いのです。

相続トラブルで一番多くもめる要素がこの疑念というものなんです。

秘密の贈与

『わずか数百万円の援助が、
 他の子供達から千万単位の援助と誤解されていた?』

ということも珍しくないのです。

この疑念が大きな相続トラブルになる光景を何度も私は見てきました。

「兄さん、姉さんばかりえこひいきされてきたじゃないか!」
「同じ孫なのに、なんでこんなに差をつけるなんて親父の神経を疑ってたんだ!」

なんて不満を言い出す子供もいるのです。

やっぱり
「子供たちはみんな平等なんだから、平等に遺産分割すべきだ!
 それには過去の分も清算してくれよ!」

と思うのも当然なんです。

でも、そんなこと
考えてもせずに安易に生前贈与を勧める専門家もたくさんいます。

「こうすれば、他の子供は同感じるのか?」
という部分がぽっかり抜け落ちていることもあることも知っておいて下さいね。

遺産分割の不満
徹底的にもめるのであれば、税務署に贈与税の開示請求をすることも可能ですが
住宅資金の特例による贈与などは相続税の課税対象ではないため調べることもできません。
こうなれば、親の預金通帳を遡って調べその取引履歴から高額な振り込みや引き出しを見つけ援助を受けた子供に贈与の事実を証明しなければいけないのですが、現実的にはかなり困難を極めます。
また、孫への贈与なども「特別受益」として相続財産にプラスしてトータルで相続人間で遺産分割の話をすればよいのですが、
原則、孫への贈与は「遺産分割に反映しなくてもよい贈与であるため
これが相続トラブルのもめる要因にもなりやすいのです。


いかがですか?節税!節税!
と焦るあまり、他の子供の気持ちを考えない生前贈与の場合
かえって相続でもめる原因を作っていることもあるんですよ!

といっても親が自分の財産をどうしようが自由です。
私自身、ご相談者を腹を割ってお話しすると
正直なお気持ちをお話ししていただけることも多いです。

たとえば、
「他にも孫がいるが、長男の子供のAにはこの事業を継いでもらいたい!
 ついては、帝王学として海外留学などできるだけのことはしたい!」

「孫のBだけは他の孫に比べて、成績がとても優秀だ!
 できれば医者にでもしたいのでできるだけ援助してやりたい!」

「娘は他の家に嫁いでいる身だ!できれば先祖代々の財産は息子に渡したい!」

「次男の嫁は、バツイチの子連れ再婚だ!
 正直 血のつながっていない孫に遺産を渡すのには抵抗がある!」

「子供の一人は私たちとはそりが合わず、顔もほとんどださない親不孝者だ!
 いまでは勘当同然の関係だ!」

さまざまな事情や理由があります。

そのためには、
全ての子供や孫を、
決して平等とはいえないようなこともしなければいけないこともある

というのが現実ではないでしょうか?

ただ、それが将来の遺産相続トラブルの火種にならないようにするためには
きちんとあなたの気持ちを伝えるために遺言書が重要になってきます。
あまりに偏った考えの遺言書はもめる原因になることもありますが
あくまで親が子供に自分の考えを伝えることは非常に大切です。

そこまで考えて生前贈与を行ってくださいね。

税金のプロである税理士のアドバイスは正解なんですけど、
必ずしもそれがベストとは限らないこともあります。
だから僕みたいな相続コーディネーターの出番なんですね・・・